
医療事務を採用して院内で回すか、レセプト業務を外に出すか、院はどちらを選べばよいのでしょうか。
金額を比べる前に確かめたいのは、在宅の算定を分かる人が、そもそも採れるかどうかです。 採用と外注の比較は「採れる」前提の上に乗っていますが、在宅ではその前提が崩れやすくなっています。
- 在宅の算定を経験した医療事務は、実感として全体の10分の1以下です
- 募集に10万円かけても、経験者が確実に採れるわけではありません
- 採れなかった院では、担当が抜けた翌日からレセプト業務が滞ります
本記事は2026年9月2日時点の情報です。
比べるときは、給与だけでは足りません
月給には、法定の負担と募集費用があとから乗る
採用と外注を比べるとき最初に並ぶのは「月給25万円」と「委託料◯万円」ですが、この2つは同じ土俵に乗っていません。月給には、社会保険料の事業主負担、有給休暇を取った日の賃金、時間外が出た月の割増賃金、そして募集にかかった費用が、あとから積み上がるためです。
並べるのは「1年で院を出ていく総額」
だから比べるのは月給ではなく、月給に法定の負担を足した「1年で院を出ていく総額」です。委託料のほうは、契約書に書かれた範囲で収まる形なら、あとから増える余地が小さくなります。
ただしどちらが安いかは院ごとに変わるので、金額の大小では決着がつきません。そろえるのは、並べる項目のほうです。
そのうち雇う側にだけ乗るものは法律で料率が決まっていて、院の事情に関係なく先に計算できます。まずそこから出します。
年収400万円の職員には、年64万円が別にかかる
内訳は6つ。うち2つは事業主が全額を持つ
前提は、東京都の協会けんぽに加入する院が、年収400万円・賞与なし・標準報酬月額340,000円・40歳未満の職員を1人雇った場合で、料率は2026年度のものです。
何の負担か | 料率 | 誰が負担するか | 年額 |
|---|---|---|---|
健康保険料 | 9.85% | 労使折半 | 200,940円 |
子ども・子育て支援金 | 0.23% | 労使折半 | 4,692円 |
厚生年金保険料 | 18.300% | 労使折半 | 373,320円 |
子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 事業主が全額 | 14,688円 |
雇用保険料 | 8.5/1,000 | 事業主分のみ | 34,000円 |
労災保険料 | 3/1,000 | 事業主が全額 | 12,000円 |
合計 | 639,640円 |
料率は全国健康保険協会の保険料額表、日本年金機構の説明、厚生労働省の雇用保険料率のご案内、労災保険率適用事業細目表によります。
40歳を超えると、さらに3万円増える
年収に対する比率にすると、およそ16%です。40歳から64歳の職員なら介護保険料率1.62%が加わり、負担は年およそ67万円まで上がります。
つまり年収400万円で採用したつもりの職員に、院は年460万円を超える額を払っています。この試算に募集の費用も教育の時間も入っていません。
採用は、金額よりも「採れるかどうか」でつまずきます
在宅の算定を経験した人は、実感として10分の1以下
ここからは公的な統計で確かめられない話で、医療事務の採用に関わってきた中での実感値として書きます。医療事務で算定を経験している人は少なくありませんが、在宅の算定を経験している人は実感として10分の1以下ではないかと見ています。外来の経験者を採用しても、在宅の算定は入職後に覚えてもらう時間が要ります。
募集費用は10万〜15万円。ただし1回で決まるとは限らない
募集にかかる費用は、1人あたり10万円から15万円前後だと考えています。ただし金額よりも効くのは、必要な時期に採れるかと経験者が採れるかの2つです。
在宅の算定を経験した人を10万円で採れる場合もあれば、募集を何度か繰り返す場合もあるので、見えない費用まで含めると10万円では済まないことが多いのではないかと見ています。10万円払えば確実に採れるなら、それはいいことです。実際にはそんなことはありません。
採れなければ、レセプト業務はいまいる担当者に集まります。ここから先は、1人に集まった院で何が起きるかです。
1人に集めると、休むときも辞めるときも止まります
休むときも、1人だと日を選べない
労働基準法第39条は、6か月続けて勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日の有給休暇を与えるよう定め、同条第7項により、10労働日以上が与えられる職員についてはそのうち5日を使用者が時季を定めて取らせなければなりません。
医療事務が1人の院では、この5日をどこに置くかが毎年の課題になり、請求は各月分について翌月10日までと決まっている以上、休める日は月の後半へ寄ります。
辞めやすさは、統計では確かめられない
厚生労働省の令和7年雇用動向調査によれば、医療・福祉の離職率は14.3%で産業計の13.7%をわずかに上回りましたが、この区分は介護や社会福祉の事業所も含む産業大分類です。医療事務という職種単独の離職率は公表されていません。
実感としては、クリニックによってかなりさまざまで、半年から1年で辞める例もざらにあります。3年というところが、一定の平均値と言えるのではないでしょうか。
辞める理由もさまざまで、採用を通して聞くところでは、過重労働による体力の限界、人間関係の難しさ、家庭の環境、クリニックの方針への疑問の4つが挙がります。
抜けた翌日から、レセプト業務が滞る
担当が1人の院では、その人が抜けた翌日からレセプト業務が滞りはじめます。院内に内容を分かる人が残らないためです。このときレセプト代行の側から見ると、「来月からお願いできませんか」という短い期日での相談が届き、選ぶ余裕のないタイミングで業者を決める形になります。
どちらに向くかは、3つ確かめれば見えます

確かめるのは、患者数と担当者の定着と判断の場所
確かめることは3つです。そろっているなら院内に置き、欠けているなら外に出す側へ寄ります。
- 患者数がどれだけあるか=少ないうちは院内で回すほうが小さく収まりますが、これから増やしていくなら担当1人で持ちきれる量を超えます
- いまの担当者が長く安定して勤めているか=定着しているなら無理に外へ出す理由はありませんが、抜けたときに代わりを採れる見込みが立たないなら外に出す側です
- 算定の判断が院内で完結しているか=迷ったときに院内で決められるなら体制は足りていますが、判断のたびに調べ直しているなら、その負荷は外に置いたほうが軽くなります
3つそろっているなら、外に出す必要はありません。欠けているものが、そのまま外に出す理由になります。
決めるのは、余裕のあるうちに
同じ院でも、いつ決めるかで選べる幅が変わります。担当者の退職が見えてから、あるいは査定や返戻が続いてから動くとなると、限られた時間で決めることになります。比べておくなら、余裕のあるうちのほうが条件をそろえて選べます。
よくある質問
Q. 委託料の相場はどのくらいですか。
公的な統計は見つかりませんでしたが、各社が公開している料金情報を見ると、1件あたり2,000円から3,000円のところが多くなっています。ただし各社で範囲の線が違うため、金額と一緒に、どこまでが委託の範囲かを確かめると比べやすくなります。
Q. 採用と外注は、どちらか一方しか選べませんか。
両方を組み合わせている院もあり、院内の職員に受付と患者対応を担ってもらいながら、請求の作成と点検だけを外に出す形が取れます。
本記事は2026年9月2日時点の情報です。
記載の内容は一般的な情報提供です。個別の医療機関における算定の可否は、届出の状況・患者の状態・院内の運用によって異なります。実際の請求にあたっては、必ず一次資料および管轄の審査支払機関の取扱いをご確認ください。
執筆・運営:MINORAS株式会社 今井 稔
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在宅医療・訪問診療クリニックのレセプト業務を担当するチームです。算定、返戻・査定対応、月次点検の実務に携わりながら、院内で判断に迷いやすい場面を記事として整理しています。制度に関する記載は一次情報を確認し、医療実務責任者の確認を経て公開しています。


