
電子カルテやレセコン、オンライン請求の準備が進んだあと、開業後のレセプト業務を誰がどの順番で回すかまで決められているでしょうか。
結論からいうと、開業前に決めたいのは「誰をレセプト担当にするか」だけではありません。診療した情報が、記録・確認・算定・修正・最終確認までどう流れるかを、役割と期限つきで決めておくことが重要です。
- 診療した日に、請求に必要な情報がどこへ残るかを決める
- 不明点は、事務側で推測せず医師へ確認するルートを決める
- 月末までに、未解決の確認事項がどこに残っているか見える状態にする
本記事の情報基準日は2026年9月26日です。
開業前に作るのは「担当表」ではなく「情報の流れ」
システムの準備だけでは、院内の流れは決まらない
保険診療を行うには保険医療機関の指定が必要で、オンライン資格確認やオンライン請求にもそれぞれ準備があります。
ただし、制度上の準備が終わっても、「診療内容を誰が請求情報へつなぐか」「分からない項目を誰に戻すか」「最終的に誰が確認するか」は自動では決まりません。
開業初月のレセプト請求そのものの準備とは別に、院内で情報が流れる道筋を作っておく必要があります。
「レセプト担当者1人」を決めるだけでは足りない

担当者を1人決めても、その人が何を見て判断するのかが決まっていなければ、開業後に質問が集中します。
最低限、次の6つの役割を整理します。
- 患者情報を登録・更新する
- 診療内容を記録する
- 請求に必要な情報を確認する
- 不明点を医師へ確認する
- 修正内容を反映する
- 最終確認・請求確定を行う
1人が複数の役割を担っても構いません。大切なのは、役割があることではなく、境目が見えることです。
入口は患者情報と診療記録
資格情報は「受付の仕事」だけではない
オンライン資格確認は、資格情報をオンラインで確認する仕組みです。訪問診療では、マイナ在宅受付Webやマイナ資格確認アプリなど、訪問先での利用を想定した機能も用意されています。
開業前には、資格確認の方法だけでなく、資格の変更を誰が見つけ、どこへ反映し、請求担当へどう伝えるかまで決めます。
資格情報が変わった事実を把握しても、レセコンや院内の管理情報へ反映されなければ、請求時の確認が増えます。
診療録から請求担当へ情報が届く道を決める
診療内容は、診療録に記載されて終わりではありません。
請求担当が必要な情報を確認できるよう、
- どの画面を見るか
- どの項目を請求担当が確認するか
- 診療後に追記が必要な場合は誰が知らせるか
- 事務側で判断できない内容をどう戻すか
を決めておきます。
2026年度の診療報酬では、点数表、施設基準、記載要領、疑義解釈などが更新されています。レセプト担当者が診療録だけで判断できない事項を、推測で補わない運用が必要です。
診療後は「入力済み」と「確認待ち」を分ける
完了と未完了を同じ場所に置かない
開業直後は、院長もスタッフも業務に慣れていません。
この時期に「あとで確認する」を口頭だけで回すと、誰が何を待っているのか分からなくなります。
そこで、診療後の情報を少なくとも次の2つに分けます。
- 入力・確認が終わったもの
- 医師や他担当の回答を待っているもの
確認待ちには、対象日、確認内容、確認先、期限を付けます。
不明点をレセプト担当者の頭の中に残さない
MINORASでは、算定や請求の判断を担当者個人の記憶に置かず、判断の根拠や確認先を残す考え方を重視しています。
開業時からこの考え方を入れておくと、「前の担当者はこうしていた」という口伝だけに頼りにくくなります。
院内で独自の判断ルールを持つ場合も、
- どんな場面で使うルールか
- 何を確認するか
- 誰が決めたか
- どの一次資料を根拠にしたか
- いつ見直すか
を残すと、後から確認しやすくなります。
医師への確認ルートを先に決める
質問の仕方まで決めると往復が減る
医師への確認が必要になる場面を想定し、開業前に確認ルートを決めておきます。
問題は、質問が発生することではなく、質問の形式が毎回違うことです。
たとえば確認時は、
- 患者・診療日
- 確認したい項目
- 事務側で確認した記録
- どの点を判断してほしいか
をそろえます。
「これ算定できますか」だけで聞くのではなく、確認対象を絞って渡すと、医師も回答しやすくなります。
医師が答えた内容を、その場限りにしない
同じ質問が繰り返される場合は、その回答を院内ルールへ反映します。
ただし、診療報酬の取扱いは改定や疑義解釈で変わることがあります。2026年度改定後も疑義解釈は継続して発出されています。
そのため、院内ルールには「根拠」と「確認日」をセットで残し、改定時に見直せるようにします。
月末は請求対象と未解決をそろえる
月末に確認するのは「誰が診療したか」だけではない
月末は、1か月分の診療を請求へつなぐ段階です。
確認したいのは、
- 請求対象の患者がそろっているか
- 患者情報の変更が反映されているか
- 診療内容の入力が終わっているか
- 医師への確認待ちが残っていないか
- 院内ルールに沿った確認が終わっているか
です。
ここで初めて未入力や未確認が大量に見つかると、翌月の請求期間へ仕事がずれ込みます。
未解決は「ゼロにする」より「見えるようにする」
実務では、月末時点で回答待ちが残ることもあります。
その場合でも、何が未解決で、誰の回答を待っているのかが分かれば、優先順位を付けられます。
危険なのは、未解決の存在自体が見えていない状態です。
最終確認とオンライン請求の責任者を決める
オンライン請求は5日〜10日に行う
支払基金は、医療機関のオンライン請求を原則として毎月5日から10日に受け付けています。受付・事務点検ASPを使い、事務的な不備を確認して修正することもできます。
開業前には、次を決めておきます。
- 誰が請求データを作るか
- 誰が最終点検するか
- 誰がオンライン請求を操作するか
- エラーが出たとき誰が対応するか
- 請求確定後、どこに記録を残すか
「送信した」と「請求が確定した」を分ける
オンライン請求では、データを送信するだけでなく、受付結果やエラーを確認する工程があります。
支払基金は、受付・事務点検ASPの結果を確認し、必要な訂正を行う運用を案内しています。
そのため、院内でも「送信担当」と「請求完了を確認する担当」を同じにするか、分けるかを決めます。
開業前に1回、流れを通してみる
本番前に「模擬1件」で確認する
開業前に、患者情報から請求確定までの流れを紙や模擬データで一度通してみると、役割の穴を見つけやすくなります。
確認したいのは、
- 患者情報をどこへ登録するか
- 診療録から請求担当がどこを見るか
- 不明点を誰へ戻すか
- 回答をどこへ反映するか
- 月末に誰が未解決を確認するか
- 最後に誰が請求確定するか
です。
システムが動くかだけでなく、人から人へ情報が渡るかを確認します。
開業後は流れを毎月少しずつ直す
最初から完璧なフローを作る必要はありません。
訪問診療は、患者数や施設との連携、スタッフ数によって業務量が変わります。開業後に実際の詰まりを見ながら、日次・週次・月次の役割を修正します。
「誰が悪かったか」ではなく、「どこで情報が止まったか」を見ると、改善しやすくなります。
よくある質問
Q. 医療事務を採用していれば、レセプト業務の流れは任せてもよいですか
経験者がいても、院内の電子カルテ、レセコン、診療方針、確認ルールは自院ごとに異なります。担当者へ任せる前に、誰が何を確認し、医師へどのように確認するかを院内で決めておくほうが引き継ぎやすくなります。
Q. 開業前にレセプト業務のマニュアルまで作る必要がありますか
最初から詳細なマニュアルを完成させる必要はありません。まず「診療→記録→確認→修正→最終確認→請求」の流れと担当者を1枚にします。実際に運用しながら、判断が繰り返される部分だけルール化していく方法が現実的です。
Q. 院長が最終確認をしたほうがよいですか
院の規模や担当者の経験によって異なります。重要なのは、院内で最終確認の責任者を明確にし、事務側で判断できない診療内容を推測で処理しないことです。
Q. 開業時からレセプトポリシーを作る必要がありますか
すべての判断を最初から文書化する必要はありません。実際に迷った論点から、「何を確認し、何を根拠に、誰が判断したか」を残すと、院内のルールが少しずつ育ちます。
本記事は2026年9月26日時点の告示・通知・公的機関の案内に基づいています。
記載の内容は一般的な情報提供です。個別の医療機関における算定の可否は、届出の状況・患者の状態・院内の運用によって異なります。実際の請求にあたっては、必ず一次資料および管轄の審査支払機関の取扱いをご確認ください。
執筆・運営:MINORAS株式会社 今井 稔
開業前に、レセプト業務の役割分担や確認ルートまで整理しておきたい場合は、MINORASへお問い合わせください。
在宅医療・訪問診療クリニックのレセプト業務を担当するチームです。算定、返戻・査定対応、月次点検の実務に携わりながら、院内で判断に迷いやすい場面を記事として整理しています。制度に関する記載は一次情報を確認し、医療実務責任者の確認を経て公開しています。


